アニメ感想サイトって毎日何考えてるんだろ?

最近はてなブックマークを見てると、「本や映画の批評は知識のない「自分語り」レベルじゃ単なる「感想」だよ」とか「律儀に毎日アニメの感想を書いている職業SEの人のサイトを見ると自称毒舌っぽい感じのステキ文章がいっぱい見つかる気がする」とか、感想サイトとしてはちょっと気になる記事が注目されていたりするのですが、アニメ感想サイトが修行僧のような生活をしてるといったような実態はあまり知られていないように思えます。

そんなことを考えながら電車に乗ってると、日能研の広告に載ってる問題が目に入って、これはなかなか面白そうなのでネタにすることにしました。感想サイトというか自分自身のことな気がしますが、「感想サイトってこんなこと考えながらアニメ見てるんだ」という一つのサンプルとして参考にしていただけば。

課題文&問題

http://www.nichinoken.co.jp/sikakumaru/mondai/sm_k_0612.html より抜粋

狩人(かりうど)と犬
狩人が犬を見て、次々に食べ物を投げてやりました。すると犬はその人に言いました。
「あっちへ行ってください。あまり親切にしてくださると、かえって私はこわくなります。」
人に色々ものをくれる人は、下心があるに決まっているのです。


(河野与一翻訳『イソップのお話』<岩波書店>による)
※設問の都合上、本文の表記を改めたところがあります。

問 「狩人と犬」を分析します。次の質問について考えて答えなさい。

1)狩人は犬に近づこうとしましたか。「近づこうとした」「近づこうとしなかった」のどちらかを書きなさい。また、そのように考えられる理由を、本文中の言葉を使って説明しなさい。

2)犬はどうして「あまり親切にしてくださる」と、かえってこわくなると感じるのですか。

3)狩人は犬に対してどのような下心を持っていると考えられますか。狩人の下心の内容を書きなさい。

簡単な文章ですね。これを題材にして、感想サイトのアニメに対するアプローチを考えてみようかと思います。

「筆者の見解=正解」ではありません

入試における小説文の読み方としては、「登場人物の気持ち」と「物語の主題*1」が現れるところをチェックして読むのが基本です。今回の場合、最後の「人に色々ものをくれる人は、下心があるに決まっているのです。」と犬の気持ちをまとめている部分、これは「筆者の主張する主題」であり絶対的真理です。つまり犬は「下心があるから親切にされたくない」と思っていることになります。

何を当然のことを・・・と思うかもしれませんが、アニメ感想においては筆者の考える主題が必ずしも物語の本質をついているとは考えません。「下心があるから親切にされたくない」は筆者の一意見にすぎず、キャラクターが本当にそう思ってるかどうかは純然たる事実のみに基づいて推測を行うべきです。つまり

  • 狩人:「次々に食べ物を投げてやりました」
  • 犬:「あっちへ行ってください。あまり親切にしてくださると、かえって私はこわくなります。」

判断基準になるのはこの2点の事実のみです。そして、この事実に対して最も説得力のある背景を想像する、これがアニメ感想の基本スタイルになります。

というわけで、以上を踏まえて問いに答えてみようと思います。

問1. 狩人は犬に近づこうとしましたか。

背景があいまいですね。「近づこうとしましたか」という質問から察すると純粋に事実関係を聞いているだけだと思いますが。文章中で唯一二人の位置関係を示す「あっちへ行ってください」という台詞から推測すると、その時点では近づいていたと考えればいいのかな。

問3. 狩人の下心の内容

「下心」なので、食べ物を与える結果として狩人の得になる現象はなにか。質問を変えると「狩人に下心がある」と仮定した場合の、狩人の気持ちを読み取ることになります。
普通に考えれば、餌で釣って捕まえて食べるか売るか猟犬としてこき使うか・・・だと思います。

ただ、このお話の舞台を「犬がしゃべる」ファンタジーの世界であるとすれば、「犬が美少女に変化して恩返しをしてくれるかも☆」のようなおとぎ話的*2コンテキストや「犬神様の祟りじゃ」のような宗教的コンテキストなど、メタフィクショナルな視点で考えることも可能であると思います。

問2. 犬が「かえってこわくなる」のはなぜか

物語の本質に迫る重要なテーマです。ここで犬が何を考えていたのかを読み取ること、その解釈こそ感想サイトの個性が発揮される部分であると思います。

ちなみに模範解答は・・・

犬は何もしていないのに、狩人が食べ物を次々投げてくれたから。

うーん、回答としては微妙な気が。「気持ち」を聞いているのに「行動」を答えるのはどうなのかな。犬が恐れたのは狩人の「下心」なので「過剰な親切に下心を感じたから」というのが模範解答では?

・・・まあそれはともかく。

「下心があるに決まっている」とはあくまで筆者の見解であり、犬の気持ちを読み取るに当たっては意図的なミスリードと考えます。

「かえって私はこわくなります」という背景には、かつて過剰な親切を受けた結果として何らかのトラウマになるような経験をした、もしくは経験を聞いたということがあるはずです。つまり問題の本質は過剰な親切にあるわけではなく、その結果としてどのような体験をしたのか、ということ。従って、「あっちへ行ってください」を額面通り受け取って「じゃあ親切にしてはいけないんだ」と考えることは、犬にとって根本的な解決にはなり得ません。

では、犬が感じたトラウマとはいったい何か。もちろん教科書的には「捕まえられた」という回答になると思いますが、一般的な感覚として狩人が犬を捕らえたりするのでしょうか?犬は狩るべき存在ではなく、家族となるべき存在であると考えるほうが妥当です。さらにこの世界は「犬がしゃべる」ファンタジー世界であり、「あっちへ行ってください」などと人間と対等に会話している*3ことも合せると、「狩る存在 VS 狩られる存在」という関係ではなく、「対等な個体」としての関係と考えるのが自然でしょう。そして、その裏には悲しい人間*4ドラマがあったのではないか・・・と想像が浮かんできます。

過剰な親切が引き起こす、悲しい人間ドラマ。この犬は、かつて同様の親切を受け、人間と一緒に過ごした時期があったのではないでしょうか。そして、その結果として悲しい別れを経験したのではないでしょうか。つかの間の幸福と引き換えにするには余りにも大きな別れの喪失感。もう二度とこんな怖い思いはしたくない。こんな悲しい思いをするくらいなら、誰も近づかない方がいい。少しでも親切を受け取ってしまうと、その先を期待してしまうから・・・。

そんなことを思った犬は、以来人を遠ざけようと心を閉ざしてしまったのかもしれません。

というわけで

感想サイトとは、毎日こんなことばっかり考えてる人種なのでした。他にも、ぜひとも皆様の独自な解釈をお待ちしています(笑)かもんれっつだんす♪

出題校にインタビュー: 日能研 - シカクいアタマをマルくする
http://www.nichinoken.co.jp/sikakumaru/mondai/sm_k_0612c.html

「深読みしすぎに要注意」

・・・。

*1:これは「登場人物の気持ち」から帰納的に判断するのがほとんどだと思いますが

*2:もしくはエロゲー

*3:敬語まで駆使して!

*4:人間・・・?