いばらの王-King of Thorn-

さて、このアニメはどうやって感想を書いたものか・・・。

あらすじとしては、公式のストーリー紹介が一番分かりやすいかも。石化する謎の奇病「メドゥーサ」の対策として、ヴィナスゲイト社が開発したコールドスリープを受けるカスミたち。だが目が覚めた時、周りはいばらに囲まれ謎のモンスターが跋扈する悪夢のような光景が広がっていた・・・。

色々書きたいことはあるのだけど、まずはざっくりとした感想を書いていきます。例によって全く予備知識の無い状態で見ていたので、予想以上にホラーな作風にビビリまくり。ひたすら謎の化け物に追いかけられて人が死んでいくのが超怖かったですよ。あれは怖すぎる!ひとしきりホラー展開に慣れていき、物語全体の構成が少しずつ見えていくに従って、ヒロインのカスミとシズクの思いが少しずつ見えてくる。そして最後は、全ての思いがシズクへと繋がっていくことに気づいて感動がこみ上げるのでした。アクションシーンの大迫力と、カスミとシズクが織りなす思い、そしてハードでいながらファンタジックな世界観。すごく楽しくてドキドキして、最後は妙な感動がある作品でした。

コールドスリープを開発したヴィナスゲイト、統括管理制御システムのアリス、そして登場するキャラクターがそれぞれの思惑を持って話を進めていくので、大きな物語を理解するのがすごく難しい作品だったかもしれません。ある出来事が起こる原因に、色んな事情が絡んでくる。ただ、全ての出来事、全ての思いがシズクへと繋がっていくと考えれば、解釈はそれほど難しくないと思いますよ。とはいえ、お話の密度は非常に濃いので感想は書きにくいのですが・・・。

ここからは自分の解釈だけど、この悲劇自体は「暴走した」と説明されている通り、誰かの思惑ということじゃなくて純粋に失敗だったのだと思います。シズクの現実を否定する思いにアリスが反応して、人間を滅ぼすためにティムのゲームを、シズクを守るためにいばらの城を、それぞれ集めた夢のデータから作り出したのではないでしょうか。そしてカスミを生かすために、カスミ自身とそれを守る人間を選び出したと。ただ、いばらはシズク自身も作っているわけだから、アリスとシズクの相乗効果だったということなのかな。そうやって考えていくと、この物語で起こっている様々な事件は、全てシズクの内面へと繋がっていく。カスミの存在さえも。なぜなら、カスミはシズクから生まれた存在なのだから。

両親だけでなく、カスミまで死んでしまった世界なんて消えればいいという思いと、カスミに生きていて欲しいという相反する感情。その両方に対して整合性を取ろうとした結果、生まれたいばらの城。

「カスミに生きて欲しい」という願いがオルタナティブを作ったのであれば、カスミの記憶からシズクを消してしまえば完璧だったはず。カスミが自分の存在に気づいていれば、いつかは必ずたどり着いてしまう。そうなったら終わりだってことはシズクも分かってたよね。では、なぜそうしなかったのか。

それは当然、カスミに自分のことを忘れて欲しくないから。お互いに「自分は死んでもいいから相手が生きていれば・・・」ということを言っていますが、実際のところは二人一緒に生きていたいということなのでしょう。そして、シズクはカスミに自分のことを見つけて欲しかった。自分で作ったいばらの城から、救い出して欲しかった。そんな風に思えてなりません。

「願いのないところに奇跡は生まれない」

本編中に何度も繰り返された台詞ですが、「奇跡」とは何だったのか。奇跡が世界を変える力だとすれば、その結果は謎の奇病を発生させ、大勢の大切な人を失っただけ。それでも奇跡を願う必要があるのだろうか?奇跡を願ったりせず、えいえんに幸せな夢を見続けていた方がよかったのではないか?

その問いに対する正解が存在するかどうかは分かりませんが、少なくともこの作品に限って言えば、登場人物はみんな過去にトラウマを持っている。だとすれば、彼らに必要なのは幸せな夢よりも過酷な現実。言い換えれば、変わらない世界ではなく変わらずにはいられない世界なのでしょう。


ひとしきりストーリーの話をしたところで、アニメーションとしての話を。文学少女の後に見たということで、どうしても比較してしまうんだけど、作画の力の入れようがすごいですね!キャラデザをリアル指向にしたことに伴い、背景もすごくリアリティを感じさせる緻密な作画になってました。「人間が石化する」とか「謎のモンスターが襲ってくる」と言った、根源的な恐怖というものをアニメーションとしてちゃんと表現してくれたのもよかったです。まあ、その分メチャメチャ怖かったけど・・・(笑)

細かいところで言えば、コロコロと変わるカスミとシズクの主観だったり、何があっても絶対無くならないメガネが実はギャグじゃなくて伏線だったり、色々と技巧を凝らした演出も面白かった。特に印象的だったのは、アイヴァンを追うシーンで段々と石化していくロンが分かれ道に迷うシーン。あそこで画面自体を回転するのには驚いたなあ。最後の大仕掛けも、単純な俺は素直に騙されて「えーっ!」って思いましたですよ。

そういった意味では、脚本、作画、演出、そして音楽と全体的に非常にレベルの高い作品でした。ただ、唯一残念だったのは、そういった技巧を凝らすあまり、作品のメインが謎解きになってしまったところ。もちろん最終的にはカスミとシズクの思いに落ちていくのですが、もう少し二人が思いを通じ合わせるシーンに時間を割いてもよかったなあ・・・とは思ってしまいます。

最後に、仙台エリですよ!出るという話は聞いてたけど、どうせ脇役なんだろ・・・などと何となく卑屈な感じで見ていたのですが、メチャメチャメインじゃないですか!捉え方によっては、カスミよりよっぽど主人公ですよ!アリスを触媒として、登場人物全ての思いを受け取るシズク。そして、最後に自分自身の思いを開放していく。すごい、仙台さんすごいよ・・・。ファンやっててよかった・・・。などと思ってたらEDあたりで感極まってしまいました。基本カワイイ声なんだけど、仙台エリの演技には力があるわ・・・。意志がこもってると言ってもいい。


と、そんなところでしょうか。上映後の周囲の反応だと「分かりにくい」という話が聞こえてきたりしましたが、シンプルに「カスミとシズクの物語」として、もっと言えば「シズクの物語」として捉えていけば、全体に通った一本の糸が見えてくるんじゃないかな?と思います。少なくとも俺は楽しかったですよ!