劇場版“文学少女”

以前に購入を検討したと言うこともあって、人気のあるらしい作品ということだけは知ってました。ただ、挿絵のイメージから受ける作品の印象と実際に見た印象がずいぶん違っていたのはビックリしたなー。

声も花澤香菜だって聞いてたから線の細い無口系美少女なんだろう・・・と勝手な想像をふくらませていたので、まあ、とにかくビックリした・・・というのが第一印象。

そんなヒロインの天野遠子さん。食べちゃいたいくらい本が大好きな、ご覧のとおりの"文学少女"。そんな異食症の遠子さんが、ボーダー女・朝倉美羽の世話をするうちに共依存になっちゃった井上心葉くんを立ち直らせるお話。心葉と美羽のトラウマを探りつつ、宮沢賢治の小説をモチーフにして展開するお話と幻想的な演出が、何とも独特な世界観を見せてくれた作品でした。

この作品の魅力といえば、遠子さんのラブリーさと幻想的な演出でしょうか。線の細い子かと思いきや、意外なほどアグレッシブな遠子さんはかわいいですね。おいしそうに本を食べる姿には若干引きつつも、そんなに幸せならまあいいか・・・と思えてしまうくらいにかわいい。そしてかわいいだけじゃなく、心葉のことを本気で心配してたりする優しさもよかった。初登場のインパクトで変わり者っぽい先入観を持ってしまったけど、実は一番常識人だったりするんだよね。

そして演出。夕方の陽光が差し込む部室、靴を脱いで椅子に体育座りしている遠子先輩を含めた全体の風景がキレイ。おそらく、このシーンが本作品を象徴する絵なのでしょう。欲をいえば、だからこそ日常である普段の学校とのギャップを強調して欲しかったかな。特に今回は2時間という制約があるわけだから、オーバーなくらい印象づけても個人的にはよかったかな?と思ってしまいます。あとは、ただの電車が鉄道になってしまったり、現実と空想が曖昧な感じの情景描写も面白かったです。

ストーリーとしては、実は上で言った以上の感想は特に無くて。率直に言って、メインの話は全然面白くなかった。遠子先輩の視点で話が進んでいくのかと思って見てるうち、どうやら主人公は心葉くんらしいことが分かってくる。なのに、最後の最後まで心葉が何を考えているのか全然見えてこない。

トラウマがあるのは分かった。美羽がいて幸せだったのも分かった。じゃあ、それからどうしたいの?と言えば遠子にチューするとか!何だそれは!大体、ストーリーの大きな鍵となっていそうな「カンパネルラの望み」だって美羽がベラベラ喋っちゃうし、美羽を立ち直らせるのも遠子先輩の謎の説教だったし、心葉は一体何をしたんだ?一緒に死のうとしたのはトラウマから来る共依存だとしても、美羽が立ち直ったら即遠子先輩狙いって、それはいくらなんでも・・・。

主人公の思いが分からないまま話が進んでいく上に、他のキャラクターはさっさと自己解決してしまうから、結局何がしたいんだかよく分からない話になってしまった気がするなあ。遠子先輩が"文学少女"という設定(?)がイマイチ生きてなかったのも残念。キャラ的には完全に美羽に食われちゃってたし、特に後半の影の薄さが切なかったですよ。

というか、そもそもこの話をセレクトした理由がよく分からない。"文学少女"という世界観を2時間で最も効果的に見せるエピソードだとは・・・とても思えない。美羽が救われたのは分かったけど、じゃあ文学少女って何なの?とか、心葉は何がしたかったの?とか、肝心の部分が全然胸に響いてこなかったな。琴吹ななせ、芥川一詩、竹田千愛といった脇役の子たちも、思わせぶりだった割には何のために出てきたんだか・・・。

本作の裏ヒロイン・朝倉美羽さん。心葉の気を引くために盗作の物語を話すところはまだ可愛げがあったんだけど、その後は屋上から飛び降りるわ無理心中を図るわトラックに轢かれるわと迷惑極まりない!トラックに飛び込んだ時は、あまりにもあんまりな展開に申し訳ないけど思わず笑ってしまいました。

ただ、その後から内面のドロドロしたものを吐き出すシーンはすごくよかった。特に「心葉の物語は綺麗すぎて、自分がすごく醜い人間のように思えてくる」みたいな台詞はすごく印象的でした。潔癖でありすぎるがゆえに、自分の醜い心を直視せざるを得なかったのかな。綺麗な物語を綺麗だと思えるほどに美羽が鈍感なのであれば、もしかしたら今回の悲劇は起こらなかったのかもしれません。

そして、自分には語るべき物語がないという美羽に対して「物語はいつもそばに溢れている」という遠子先輩は、やっぱり本当に文学少女だったのかも知れませんね。

  • 姫倉麻貴さんのキャラ紹介。さくっとスゲエこと言ってるなあ・・・。そういう裏取引があったとは。
  • というか、キャラ紹介を見てみると、本編は明らかに描写不足じゃないかって思うんだけど。
  • 遠子先輩が教室で椅子に座ってる時、長い髪の毛が床に付きそうになってたよね。汚くないのか?
  • ラストで超成長しててビックリした。続編やらないのか!

追記

Wikipediaをざっくり眺めて、このエピソードを選んだ理由は何となく分かった。しかし・・・これじゃあ起承転結の「結」だけ見せられてるようなものじゃないか・・・。

原作既読の方なら楽しめそう。