隠の王 総感

この作品をまとめることは難しい。どういう切り口でまとめたものか・・・。

まずは分かりやすいビジュアル面から。キャラクターデザインを一見して「女性向け」と判断されたり、全体的に抑えた色使いを「地味」と判断されたり、そういった点で人を選ぶ部分があった作品のような印象があります。ただ、女性向けのような絵柄も、地味に見える画面作りも、キャラクターの繊細な想いを丁寧に紡いでいくという作品の主題を考えれば必要不可欠でしょう。

そして、このアニメで特に強調したいのが、キャスティングの妙。個人的には釘宮理恵を少年役に抜擢しただけでも素晴らしい。主要キャラで言えば、やっぱり藤村歩の雷鳴がよかったなあ。キャスティングとキャラ表をバラバラに見ると、雷鳴は釘宮理恵が演ると思ってしまいますが、藤村歩の芯の通った声だからこそ、雷鳴の気の強い部分だけでなく、明るさと前向きさ、ひたむきさや内面の強さが表現できていたのだと思います*1藤村歩の今シーズンの出演作の中で、雷鳴が一番自然に「女の子」してたんじゃないかな。
脇役のキャスティングも素晴しかった。曲者の雪見さんに津田健次郎、本編でも「いい声」と言われてた服部柊十郎には中田譲治。女優さんでは雪野五月の織田八重さんと、三石琴乃の関英さん、そして天野由梨の一季さん。今まで自分のイメージしていた感覚よりも数段うまくて、この方々の演技を聞いてるだけで満足でした。色物的(笑)にはこやまきみこ真堂圭の配置も面白かったなー。他にもまだまだいるのですが、全体的に声優さんの演技がすごく自然で、「演技」を感じさせない演技が気持ちよすぎ。改めて声オタである喜びを実感した作品でした。

ストーリは・・・全体的な構成で言えば、「隠の世」という現代の忍の世界という設定、そして忍の五大勢力が「森羅万象」を巡り、それぞれの思惑を持って錯綜するという複雑なお話。1つのエピソードの中に色んな視点があって、色んなことが起こっているのですが、それがゴチャゴチャすることなくすっきりと受け入れてしまえるのはシリーズ構成の巧みさだよなあ。謎を残しつつもキャラクターの目線がはっきり決まってて、目的がはっきりしているから混乱することがない。その意味では、雲平先生は最後まで何がしたいんだかよく分からなかったのですが(笑)。26話という期間に対して、急ぐことも中だるみすることもなく、過不足なくストーリーを纏め上げてくれました。

本編中では明示されていませんが、「隠の世」の世界観と主題の双璧を成すのが、「死のあり方」だったのだと思います。死を受け入れられずに「消滅」を望む宵風、雷光の死を背負って生きる雷鳴と俄雨、誰もが等しく与えられるはずの「死」を奪われ、「永遠の生」という呪いを受けた虹一としじま。その他にも、この物語には色々な「死」が出てきますが、共通しているのは「死のあり方」を考えることで「生きることとは何か」というテーマへ帰結していくこと。特に宵風の「死」と「消滅」の価値観には、色々と考えさせられるところがありました。

今シーズンの派手なアニメの中に埋もれてしまいそうですが、間違いなく名作の1つと言っていい作品でした。

*1:別に釘宮理恵がダメって言ってるわけじゃなく。釘宮さんの女声は軽いんですよ。だから雷鳴には向かないというだけ