最近の「最近の声優論」の話
Web上で見かける、声優に関する(主に)ネガティブな意見について。
大概は気分に応じて [これはひどい] タグを付けてブックマークするなり、100字以内にまとまる程度の反例を挙げてブックマークするなり、単に無視するなり、と言った適当な対応を行なってきたが、この辺で何となく自分の認識をまとめておこうと思った。
まあ自分は声優に関しては一貫してヌルオタな接し方をしてきたので、自分の意見が絶対に正しいという自信も自覚もない。単に自分のスタンスについて書いておこうという意図であり、特定の誰か、あるいは不特定多数をdisる意図ではないことを予め明記しておく。
おことわり
最近の声優はアイドル化している、という話
声優のアイドル化について 立メディ研の意見 - Togetter
本エントリーを書こうと思ったきっかけだが、あくまできっかけに過ぎない。典型的な「最近の声優論」だという印象で、特にこの話について深く感じ入った!とかそういう訳では無いし、上記まとめの発言者各位に含む所も無い事は再度明記しておく。自分のブックマークコメントは、いわゆるオッサン声オタのポジショントークというやつだ。
あとは例えばこの辺りか。
- http://blog.livedoor.jp/insidears/archives/52511824.html
- 顔よし、声よし、演技よし、今の「アイドル声優」が凄すぎる!!:ニュー速VIPブログ(`・ω・´)
- http://blog.livedoor.jp/insidears/archives/52508119.html
- http://blog.esuteru.com/archives/5467333.html
まず一般論として、「最近の○○は××だ」という議論は「いや前からあったし」とセットである。新興ジャンルにおいても「別ジャンルの△△で既にあった」と言われるので逃げ道はほぼ無い。
Wikipediaによると、現在は「第三次声優ブームの後」に相当する時代らしい。
声優#声優の歴史 - Wikipedia
個人的には「第四次声優ブーム」と言ってもよいのでは?という印象はあるものの、いずれにしても過ぎた道に変わりはない。
自分自身の経験ベースでは、少なくとも「第三次声優ブーム」の時代から声優をアイドル視する傾向は存在していたように思う。Wikipediaに記載されているように、声優雑誌が創刊されたり声優テレビ番組が放送されたり、ビジュアルが出る機会も少なからず存在した。Wikipediaには記載されていないが、「渋谷でチュッ!」という声優番組が放送されていたのもこの時代である。タイトルからしてエッチな番組だろうと思って録画したら、声優番組で大層驚いたことをよく覚えている。
深夜のランキング番組や、ゴールデンタイムの「はなきんデータランド」でも声優ランキングを不定期に取り上げていた。
声優とアイドルの親和性についても、今ほどでは無いかもしれないが「レモンエンジェル」や「アイドル伝説えり子」といった例は以前から存在している。また、男性になるがSMAPも金曜18時台の「姫ちゃんのリボン」「赤ずきんチャチャ」などに出演していた。きっと探せばまだまだ出てくるだろう。
ただ、「最近の声優がアイドル化している」こと自体よりも、それに付随する(と言われている)様々な影響が問題視されているので、「最近」だけを否定して「前からそうだ、何を今さら」と言ったところで本質的な話ではない。指摘されている個別事象についても以下にまとめておくことにする。
声優は裏方なんだからこえのおしごとだけやればよい
そういうストイックな姿勢を支持したい気持ちはあるが、逆に声のみで声優を捉えることの視野狭窄もまた考慮しておきたい。日本から離れて初めて日本のことを理解できる体験のように、声から離れることで感じられる声優体験もまた存在するのであろう。
個人的な感情としては、「アニメ見てたら声が気になるじゃん、声が気になったら声優さんとか気になるじゃん、そしたら声優さん自身が好きになるじゃん」という心の変遷は実に自然に思えるし、だとすればその逆もまた然り。
あとは「声優が前に出すぎるとキャラじゃなくて声優が見えてしまうから嫌だ」というピュアネスに関しても同意できる部分は多いが、それに対しては「慣れれば大丈夫だよ!」とシンプルに答えたい。結局のところ声優との距離の取り方は人次第だし、それは自分自身で試行錯誤するしかない。
まあ、何だかんだ言っても実際に声優さんに会えたら死ぬほど幸せになるので、会える声優には会ったほうがよい。
大して可愛くもないのに可愛い可愛いと持ち上げられて不快
それはもう好みの問題だろう、と言って終わる話。ある程度整っていれば、あとは好きか嫌いかだし、好きな人の顔が好きという感情は声優に限らず当てはまるものだと思う。
明坂さんの「声優補正」発言は、本人の意図とは違うところで変な人に変な餌を上げちゃったよなあ・・・とも思う。
ゴリ押し
一般視聴者たる自分に真相は知る由もないが、声オタ的性善説に基づく考察としては以下のtwitterまとめを支持したい。
中里キリさんの事務所からの声優ゴリ押しなんて幻想はぶち壊してくれるというようなお話し - Togetter
声優統計的アプローチとしては、ゴリ押しのように見えるのはアニメの本数が増えたからだ、という仮説を提唱する。
アニメファンが出演数を気にするのは深夜アニメであろうと仮定し、各年の深夜アニメの放映数をWikipedia情報を元に集計したものを以下の表に示す。なお、開始時期はアニメファン向け深夜アニメの先駆けと言われる*1「エルフを狩るモノたち」の放映開始年、1996年とする。
年 | 本数 |
1996年 | 1 |
1997年 | 13 |
1998年 | 26 |
1999年 | 14 |
2000年 | 8 |
2001年 | 22 |
2002年 | 27 |
2003年 | 50 |
2004年 | 65 |
2005年 | 72 |
2006年 | 112 |
2007年 | 89 |
2008年 | 92 |
2009年 | 79 |
2010年 | 68 |
2011年 | 79 |
この手の話で象徴的に言及される戸松遥を例にすると、2009年の深夜アニメ出演率は 16/79 = 約20% となる。
比較として1997年の宮村優子の深夜アニメ出演率を計算すると、 3/13 = 約23% である。
アニメの本数が増えた影響で出演しすぎのような印象を与えるが、旬の声優なら2割程度の作品に出ていることは特に珍しいことではない。それでも数は増えてるだろ、と言われたら、まあそうですね、という話にはなるが。
実力もないのに沢山アニメに出てて不快
何をもって「実力」あるいは「演技力」とするか、という点は議論の余地を残しているが、観測する限りでは単に経験が足りないか偏見で耳を塞いでいるか、のいずれかのようだ。
- http://seiyuusokuhou.blog106.fc2.com/blog-entry-1248.html
- http://blog.livedoor.jp/news23vip/archives/2975463.html
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「声優を叩くのが楽しい」という猟奇的な趣味を持った輩でない限りは、時間と経験が解決するので研鑽に励むべし。もちろん喜ばしいことではないが、特に大きな問題ではない。
問題なのは、この手の意見の裏に「若い声優がいい役をバンバン取るせいで僕の好きな声優さんが出れなくなった」という怨念にも似た感情がある場合。個人的には非常に同情するし、その手の黒くて不毛な感情が自分の中に無いと言えば嘘だ。
↑未来日記の24話を見ているときに受信した電波。その上で敢えて切り捨てるが、残念ながらそれは単なる被害妄想と言わざるを得ない。露出の多い誰かがいなくなったとしても、君の好きなあの人の出番は増えたりしない。この世界が君と僕の二人きりになったとしても、それでも君は僕を好きになったりはしないんだよ。
全ての声優をナチュラルに愛する、というのは神ならぬ身には難しいかもしれない。しかし、嫌いな声優を好きになることはできる。
上で例に挙げたから言うけど、2008年の自分に「お前、4年後に戸松遥の演技で泣くぜ」と言っても絶対に信じないだろう。
もちろん声優自身の演技は日々変化し続けているが、それを感じられるかどうかは自分自身だ。心を開いて声を聞けば、きっと声優はその演技で答えてくれる。と、自分は信じていたい。
エロゲー声優は演技だけで売ってるから一般声優よりすごい
意外と目にする話。
- エロゲ声優の演技力は凄い。それに比べて最近のアイドル声優の酷さ:ニュー速VIPブログ(`・ω・´)
- http://digital-thread.com/archives/3733201.html
- 声優に「顔」を求めないで「声」と「演技」で評価しよう。:ニュー速VIPブログ(`・ω・´)
本題の前に。「Aを褒めるためにBを貶す」という論理展開は、Bを好きな人はもちろん、AもBも両方好きな人も敵に回すことになるので、Aのイメージアップ作戦としては筋がよろしくない。論争を煽りたいだけなら話は別だが。
それはともかく、エロゲー声優上位論に関してはアダルトメディアに対する蔑視に起因する演技力軽視へのカウンターから来ているのだろうか。
あるいは大勢に対する逆張りなのかもしれないし、エロゲー声優知ってる俺ってマニアックアピールかもしれない。
いずれにしても声のないエロゲーで育った自分にcomprehensiveな指摘は不可能だが、数少ない体験ベースで感じたのはエロゲーとアニメでは求められる演技が違うということ。装飾過多で動きのないエロゲーキャラクターの声にマッチする演技というのは、やはりアニメとは違うように思える。その意味では、両者の演技を同一線上で比較することはナンセンスだし、どちらが上も下もない。また、エロゲー声優でも同名義で歌手活動を行っている方もいるし、逆にエロゲーをメインとしない声優も、アイドル的な人気だけでアニメの役が取れてる訳ではない。
そして、こんなことを言ったらゲス極まりないのだけど、そうは言っても例えば・・・すっごい可愛い子がエロゲーの声やってたりしたら、買うでしょ?
*1:これについては諸説あろうが今回の話題の本質ではない